大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(行コ)15号 判決

控訴人

馬上タエ

右訴訟代理人

菊地三四郎

被控訴人

宇都宮税務署長

平山孝一

右指定代理人

三室省三

外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人が、昭和三八年二月一九日、滞納会社の滞納国税(控訴の趣旨記載のとおり、以下「本件滞納国税」という。)について、控訴人が昭和三四年四月九日滞納会社から本件贈与を受けたことを理由とし、控訴人を法第三九条による第二次納税義務者として、控訴人主張の課税処分(以下「本件課税処分」という。)をしたことは、当事者間に争いがない。控訴人は、同処分について、請求原因(一)ないし(三)及び当審における控訴人の主張一記載のとおり主張するので、これについて順次判断する。

二請求原因(一)の主張について

法第三九条に規定する第二次納税義務の制度は、滞納者の国税について滞納処分を執行しても徴収できない場合において、滞納者から財産の無償又は著しく低い額の対価による譲渡等を受けた者に対し第二次納税義務を負わせ、もつて国税収入の簡易迅速な確保を計ることを目的とするものである。そして、右の目的に照らしても、また同条の文理解釈上からしても、同条に定める「徴収すべき額に不足する」かどうかを判定する基準時は、第二次納税義務者に対する徴収告知の時と解すべきである。けだし、控訴人主張のように、右基準時を当該国税の法定納期限と解すれば、同期限を徒過してから滞納者に対して滞納処分を執行するまでの間に、滞納者により財産の無償又は著しく低い額の対価による譲渡等がされた場合には、その譲渡等を受けた者に対し第二次納税義務を負わせることができないこととなり、同条の存在意義の大半が失われる結果となるからである。そして、滞納会社の資産が、控訴人を第二次納税義務者とする徴収告知のあつた昭和三八年二月一九日において、本件滞納国税の額に不足する状態にあつたことは、当事者間に争いがないから、控訴人の前記主張は採用することができない。

三請求原因(二)(イ)の主張及び当審における控訴人の主張一について

原審における控訴人本人尋問の結果によると、滞納会社は控訴人ら七人の父である馬上鉄蔵個人の事業を法人組織にしたものであり、その実体はいわゆる個人会社であつたことが認められる。しかし、いわゆる法人格否認の法理は、法人格の濫用またはその形骸化により第三者がいわれのない不利益を被ることを避けるための理論であるところ、仮に滞納会社の法人格が単なる形骸にすぎないとしても、馬上鉄蔵は、滞納会社の法人格を利用ながら、その形骸化という状態を自ら作り出した者であるから、その包括承継人である控訴人が滞納会社の法人格を否認することは許されないものというべきである。したがつて、本件物件が馬上鉄蔵の個人財産であることを前提とし、控訴人の本件物件の取得は実質上相続によるものであり、本件贈与は、実質的にみて必要かつ合理的な理由に基づくものであるから、法第三九条の「処分」に該当しないとする控訴人の主張は採用することができない。そして、控訴人が昭和三四年四月九日滞納会社から本件物件の贈与を受けたことは、〈証拠〉により認めることができるから、この点においても、本件課税処分が違法であるということはできない。

四請求原因(二)(ロ)の主張について

〈証拠〉によると、本件物件の昭和三四年四月九日当時の価額は合計約一一〇〇万円であることが認められ、〈証拠〉によると、訴外馬上建設株式会社は滞納会社といわゆる同族会社の関係にあつたことが認められ、次の事実は、当事者間に争いがない。

1  滞納会社は、本件贈与がされた昭和三四年四月九日当時、本件物件のほか、主な財産として栃木県上都賀郡粟野町大字粕尾字畑ノ沢一五三八番外一一筆山林一二町六反八畝及び同県日光市宮小来川九〇九番ノ二山林五畝二六歩(価額合計約八四〇万円)を所有していた。

2  その後、滞納会社は、被控訴人の当審における主張一1のとおり、本件滞納国税を含め合計金三六四万九〇八六円の国税を負担するに至つた。

3  滞納会社は、昭和三四年中に前記山林内の立木を二回にわたり合計金二九〇万円で売却し、次いで昭和三五年八月二七日前記日光市宮小来川所在山林五畝二六歩を金一万五〇〇〇円で売却し、更に同年一〇月二二日前記粟野町所在山林一二町六反八畝を金五五〇万円で売却した。

4  滞納会社は、訴外馬上産業有限会社に対し、昭和三四年中に金六〇万円、同三五年中に金一〇〇万円合計金一六〇万円を貸付け、訴外馬上建設株式会社に対し、昭和三四年中に金一三七万〇九七〇円、同三五年中に金五〇〇万円合計六三七万〇九七〇円を貸付けたが、右馬上建設株式会社に対する貸付金の大部分は貸倒れとなつた。

5  本件第二次納税義務が賦課された昭和三八年二月一九日現在における滞納会社の国税未納額は、被控訴人の当審における主張二3(二)のとおり、本件滞納国税を含めて合計金三八一万七〇三八円であるが、その後において滞納会社から徴収できると認められた金額が同主張二3(三)のとおり合計金二〇四万六四五九円ある。

以上の事実によると、本件徴収不足を生じた直接の原因は、滞納会社が訴外馬上建設株式会社に貸付けた金員の大部分が回収不能になつたことにあるが、もし本件贈与がなかつたならば、本件物件は、滞納会社の財産に属し、滞納処分の執行の対象となりえたものであり、したがつて、その価額の限度で滞納会社の滞納国税の徴収不足は生じなかつたであろうから、本件徴収不足は本件贈与に基因するものというべきである。したがつて、この点においても、本件課税処分は違法であるということができない。

五請求原因(三)の主張について

法第三九条にいう「当該国税の法定納期限」が滞納にかかる国税の法定納期限を指すことは、文理上明らかであり、滞納法人税の法定納期限は、法第二条十、法人税法第七四条第一項、第七七条により、確定申告書の提出期限(各事業年度終了の翌日から二月以内)、滞納源泉所得税の法定納期限は、法第二条十、所得税法第一八三条第一項により、「その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月の一〇日まで」である。そして、本件滞納法人税が昭和三四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得に対するものであること及び本件滞納源泉所得税が昭和三五年二月一日から同月二八日までに支払つた給与等について徴収する所得税であることは、当事者間に争いがないから、前者の法定納期限は昭和三五年二月二八日、後者の法定納期限は同年三月一〇日であるというべきである。ところで、控訴人が滞納会社から本件物件の贈与を受けた日は昭和三四年四月九日であるから、その日が法第三九条の定める「当該国税の法定納期限の一年前の日以後」の日であることは明らかである。したがつて、この点においても、本件課税処分が違法であるということはできない。《以下、省略》

(枡田文郎 斎藤次郎 山田忠治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例